日光修験時報「山王」

平成21年春号 より

修験の花木

修験の花木

修験者を別名山伏とも言いますが、山を修行の場とし、山の神仏を崇める宗教ですので、ことさら山にある花や樹木に対して、何をいまさらと思う向きもあるかと思います。
しかし、自然の力、その顕れである花や樹木を身近に感じる山伏であるからこそ、ことに感慨深い花木もあるのです。これから、そのいくつかを紹介していきます。

◇桜

桜には多くの種類があり、華やかであり、かつ散り際の良いこともあって多くの人に愛される花です。京では「花といえば桜」と言うそうで、すべての花の代名詞ともなっています。寒い冬が終わり、日に日に暖かくなっていく中で、桜の花のもとで人々は開放感にひたり、その花を愛でる様は、日本独特のものでありましょう。日が暮れてからは夜桜見物、寒さが戻ると、その寒さを「花冷え」と言う。桜の花に対する人の思いは、まさに尽きることがありません。

修験道の聖地のひとつ、有名な吉野山は桜の名所ですが、この山と桜のつながりは、古く役行者に遡ります。
役行者が、山上ヶ岳で御修行をされ、末世に相応しい本尊を祈り求めていた時、過去・現在・未来を済(すく)う釈迦・千手・弥勒の三仏が、末世相応の姿として忿怒形で顕れた仏が、金剛蔵王大権現でありました。行者はこの仏を本尊として、桜の木に、その御姿を刻まれたと伝えられています。また籠りの行をする修験者は、山桜の美しさを、自然界の供華と感じたのでしょう。
深い山の中、未だ葉を付けない木々と常緑樹の間に、この花々が咲くさまは、神仏から行者への供華でもあり、修験者にとって、神仏の存在をより身近に受け取れる感動の瞬間(とき)でもあったのです。
山桜
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